断続小説 「時が戻るなら」
2004年9月19日【第一話】
9月19日。
今日もコウジにとっていつもと変わらぬ朝が来た。いつもと同じように少し寝坊をして、少しバタバタしながら食パンをくわえ学校を急ぐ。ただ、道の角でとびっきりかわいこちゃんとぶつかってその女の子も食パンをくわえている、ということもなかった。学校へ来てもいつも変わらぬ級友とバカなことを言い合い、いつもと同じ楽しさに包まれる。コウジはこんな枠に決まりきった生活に慣れてしまっていた。それは魂の時間をどこかにおいてきてしまったような、さびしい生活でもあったが決してその生活に我慢をしているわけではなく、あきらめから来る心の余裕さだったのかもしれない。
学校のホームルームの時間でも、担任の声はいつも同じ記号を唱えているように思えてならない。コウジがぼーっと肘をついて担任の話し終えるのを待っていると、
「明日からうちのクラスに転校生がくるサァ。女の子サァ。」
振り返ると昨日からうちのクラスに転校してきた沖縄ボーイ、タカヒロがいた。あいのりの新メンバーの時のような転校生ラッシュに驚きを隠しきれなかったコウジであったが、その当たり前の気持ちでさえコウジは口で表現できないでいた。
「あっそう。男だろうと女だろうと関係ないね。」
今日もコウジの日常は過ぎた。
9月20日。
この日もコウジにとっていつもと変わらぬ日のはずだった。ただ、言葉では表現できないような茫漠とした心のしこりのようなものを感じていた。ただそれだけの差異がコウジの目に映る風景を全く別のものにさせていた。学校へ行く途中の道にある葉桜も今日は半ば鮮やかな緑を放ちまるで自分の存在を強く訴えているようであった。そしてその緑の中から勢いよく飛び出す小鳥も、葉を揺らし羽を揺らし、日常の一枚絵であった通学路を動きあるものにしていた。まるでコウジの目を覚ますように。
少し早めに学校に着いたコウジはタカヒロに悪態をつかれながら着席した。
「なんサァ。コウジ君も転校生が気になるサァ。」
余計なお世話だと鼻で笑っていたが、なにか胸を衝かれたような感覚がコウジを支配し、すぐ口を閉ざした。
「えー今日からクラスに一人転校生がきます。入りなさい。」
「いよっ待ってました!!」
クラスの男子は冗談交じりに騒ぎ始めた。しかし、そんなうるささは扉が開く音と共に消えてしまった。
「紹介しよう。今日からみんなの仲間になるハルカだ。」
もうクラス全員が担任の声など聞こえていなかった。彼女のまぶしい笑顔とスラッとした背格好は時を止めるのに十分だった。
「ハルカです。これからみんなとは仲良くして行きたいのでたく さん話しかけてください。」
ただ彼女の声は少ししゃがれていた。それまでなんとはなしに目を伏せていたコウジはじれったいようにハルカを見つめ返した。そしてコウジはその姿に大きな翳のような物を感じた。動いているもの全てを飲み込んでしまいそうな翳の存在が怖くて、またコウジは目を伏せた。
帰り道はいつもと同じ一幅の風景画がコウジを支配していた。
【第一話 完】
9月19日。
今日もコウジにとっていつもと変わらぬ朝が来た。いつもと同じように少し寝坊をして、少しバタバタしながら食パンをくわえ学校を急ぐ。ただ、道の角でとびっきりかわいこちゃんとぶつかってその女の子も食パンをくわえている、ということもなかった。学校へ来てもいつも変わらぬ級友とバカなことを言い合い、いつもと同じ楽しさに包まれる。コウジはこんな枠に決まりきった生活に慣れてしまっていた。それは魂の時間をどこかにおいてきてしまったような、さびしい生活でもあったが決してその生活に我慢をしているわけではなく、あきらめから来る心の余裕さだったのかもしれない。
学校のホームルームの時間でも、担任の声はいつも同じ記号を唱えているように思えてならない。コウジがぼーっと肘をついて担任の話し終えるのを待っていると、
「明日からうちのクラスに転校生がくるサァ。女の子サァ。」
振り返ると昨日からうちのクラスに転校してきた沖縄ボーイ、タカヒロがいた。あいのりの新メンバーの時のような転校生ラッシュに驚きを隠しきれなかったコウジであったが、その当たり前の気持ちでさえコウジは口で表現できないでいた。
「あっそう。男だろうと女だろうと関係ないね。」
今日もコウジの日常は過ぎた。
9月20日。
この日もコウジにとっていつもと変わらぬ日のはずだった。ただ、言葉では表現できないような茫漠とした心のしこりのようなものを感じていた。ただそれだけの差異がコウジの目に映る風景を全く別のものにさせていた。学校へ行く途中の道にある葉桜も今日は半ば鮮やかな緑を放ちまるで自分の存在を強く訴えているようであった。そしてその緑の中から勢いよく飛び出す小鳥も、葉を揺らし羽を揺らし、日常の一枚絵であった通学路を動きあるものにしていた。まるでコウジの目を覚ますように。
少し早めに学校に着いたコウジはタカヒロに悪態をつかれながら着席した。
「なんサァ。コウジ君も転校生が気になるサァ。」
余計なお世話だと鼻で笑っていたが、なにか胸を衝かれたような感覚がコウジを支配し、すぐ口を閉ざした。
「えー今日からクラスに一人転校生がきます。入りなさい。」
「いよっ待ってました!!」
クラスの男子は冗談交じりに騒ぎ始めた。しかし、そんなうるささは扉が開く音と共に消えてしまった。
「紹介しよう。今日からみんなの仲間になるハルカだ。」
もうクラス全員が担任の声など聞こえていなかった。彼女のまぶしい笑顔とスラッとした背格好は時を止めるのに十分だった。
「ハルカです。これからみんなとは仲良くして行きたいのでたく さん話しかけてください。」
ただ彼女の声は少ししゃがれていた。それまでなんとはなしに目を伏せていたコウジはじれったいようにハルカを見つめ返した。そしてコウジはその姿に大きな翳のような物を感じた。動いているもの全てを飲み込んでしまいそうな翳の存在が怖くて、またコウジは目を伏せた。
帰り道はいつもと同じ一幅の風景画がコウジを支配していた。
【第一話 完】
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